ミニ樽でウイスキーを熟成する場合の熟成速度についての乱暴な計算
「2ℓのミニ樽であれば、通常のウイスキー樽(500ℓなど)の6倍の速度で熟成が進む」
本記事の結論を言うと以上のようになります。
結構乱暴な仮定をしているので、お時間があれば以下のいろいろを読み進めていただければと思います。
<背景>
ウイスキーを自分で樽熟成させることができる「ミニ樽」というものがあるらしい。
先日会社で休憩中(サボりとも言う)に一人でできる趣味を始めたいなー、なんて先輩方と話していた時にこんな情報をゲットしました。
「密造酒・・・」とかボソボソと聞こえてきた気がしますが、イメージで語ってはいけない。
お酒には弱いがお酒(特にウイスキー)が大好きな私にとって、飲む以外の楽しみ方を見つけられればとても幸せになれるのではないかと思い、いろいろと調べました。
様々な記事やブログなどを読ませていただいて、ミニ樽熟成について以下のようなことが大まかに把握できました。
・1ℓから5ℓくらいの容量の樽が広く市販されている
・樽の素材、チャー(内面を焼くこと)処理などは本格的
・安ければ1万円程度で始められそう
・特に温度管理などは必須ではない
・思ったより流行っている(いた?)
・熟成速度が思いのほか早く、コントロールが難しそう
概ねポジティブな情報ばかりでしたが、一つどうしても気になるのが「熟成速度が思いのほか早く、コントロールが難しそう」という点です。
せっかく少ないお小遣いで買ったウイスキーをウキウキで投入しても、いざ熟成させてみたら激マズなんてことになりかねません。
そんなことになったら、その月に飲むウイスキーを確保するために妻との交渉が必要になりますが、恐らくは、熟成失敗した激マズの高純度アルコール(かつてウイスキーだったモノ)をグラスにドプドプ注いで食卓にドンッ!
そして「ライ!ラララ・ライ!ライララ!ライララ!ライライライ!」
とか一気飲みコールをしながら、まずは今ある分を飲めよ、的な要求を突きつけられるでしょう。
あぁ嫁さん、それはライじゃなくてモルトだよ・・・などという事態になりかねません。
なので、始める前に少しでも失敗のリスクを減らしたいと考えました。
なぜ熟成速度が速いのかというと、樽の容積が少なくなるにつれて容積あたりの樽内面積が大きくなるからではないかと考えられます。
つまり、以下のような2パターンがあるとすると、同じ熟成期間でも樽表面から得られる作用の強弱に違いがあるのではないか、ということです。
(1) 樽の容積が1の時に表面積が10(容積あたり表面積が10)
(2) 樽の容積が10の時に表面積が20(容積あたり表面積が2)
この場合、(2)よりも(1)の方が容積あたりの表面積が5倍大きいので熟成速度が5倍になるのではないか、と思ったのです。
化学的な反応速度や温度変化による樽内と樽外との気体の交換(いわゆる”樽の呼吸”)を無視してしまうという乱暴な仮定なので本職の方からは怒られそうですが、なにか指標が欲しい、と思ったのです。
この熟成速度ついては調べてみても具体的にどのくらいの差があるのか、を定量的に示した情報は見当たりませんでした。
そこで、容積と表面積の関係なら計算すれば何となく出せるんじゃね?と思ったので、計算結果を以下にまとめてみます。
<比較する樽寸法>
まず、数種類のサイズの樽の情報を集めるためにちょこちょこ検索して以下の情報を得ました。各寸法はこちらを使うことにします。
実は天使のミニ樽(2ℓ)は既にポチってしまって手元にありまして、何となく寸法を測定したのでその数値を使用しています。
この寸法をプロットしてみると、
このような形になります。こちらの寸法はmmです。
うーん。。オレンジの小太郎60についてはB寸法データがないのでこのような形になってしまって残念です。
そこで樽中央部分の径Bから樽端部の径Cを推測できないかと思ってその他の樽の寸法について相関を見てみたところ、下のようになりました。
これは使えそうですね。
これから小太郎60の樽中央径を使って樽端部径を推測してみると、いい感じですね。この数字を使ってしまいましょう。
もう一点、樽の外形プロットを見て気になるのが、小さい寸法の樽のデータ密度が低いことです。
今回検討したいのはミニ樽が通常のウイスキー樽と比べて何倍の熟成速度があるかなので、ミニ樽サイズ周辺のデータ密度は重要です。
そこで、既に手元にある天使のミニ樽(2ℓ)の他に、ミニ樽ショップアイリ―*1さんには1ℓ、3ℓ、5ℓのラインナップがあるので、これらも計算に使用することにしました。
しかし、HPを見てみるとこれも小太郎60と同様に樽中央径の寸法のみが公開されており、端部の径がわかりません。
前の小太郎60と同じ様に推測してみるとした図のようになります。
何となくデータの密度もいい感じな気がします。
さて、ここまでは熟成速度を比較するための材料集めでした。あらためて比較に使用する樽の情報を整理すると以下のようになります。
以上のデータから、樽の容量、表面積を計算してみます。
表面積と容量の計算ともに以下のように計算しました。
(1)樽形状の曲線を数式として表現
(2)断面の周長または断面積を(1)の数式を用いて表現
(3)A方向に積分
<計算結果>
上記の計算結果を横軸を容量、縦軸を表面積として図示すると以下のようになります。
なんとなくプロットが密集しているところがあり、見づらいですね。
これの縦軸の表面積を容積で割ると、単位容積あたりの表面積になります。
ウイスキー1ℓあたりどのくらい樽の内表面に接しているか、の指標になります。
今回比較したいのはこの「単位容積あたりの表面積」であり、これが2倍なら熟成速度が2倍、という仮定でしたね。
その結果がこちらです。
ナイスです。
これが見たかったんですよ。なんとなく頭で描いていたグラフです。
樽の容量が小さくなるほど、1ℓあたりのウイスキーが樽に接触する面積はぐんぐん大きくなります。
さて、通常市販されているウイスキーを熟成させるときに使用されている樽の容量はまちまちですが、200~500ℓ程度のものが一般的なようです*3。
今回は上のグラフを見てもわかる通り、容量が大きくなると縦軸は50~100cm^2/ℓ程度に漸近していくようです。
簡便のため(面倒なので)、一番大きな樽王500を比較対象にすることにします。
先ほどのグラフの縦軸を樽王500の縦軸の数字で割ると、単位容量当たりの接触表面積(すなわち熟成速度)が樽王500の何倍になるか、を表現できます。
その結果がこちらです。
見やすくするために横軸は対数軸としました。
わーお。とっても分かりやすい結果になりましたね。
例えばミニ樽5ℓを使用すると500ℓの樽と比較して4倍の速度で熟成が進むことがわかります。
私が持っている2ℓのミニ樽であれば、6倍の速度になります。つまり、2ヶ月入れておくと1年熟成ということになります!なんとキリが良くて気持ちいいことか。
今後は何となくこの数字を気にしながらミニ樽熟成を楽しみたいと思います。
<おわりに>
やってみたいが難しそうで始められない。始めるまえに少しでも情報を整理したいと思ってこの記事を書いてみました。
仮定や計算は乱暴なので突っ込みどころは多いと思いますが、なんとなくの指標が欲しかったので、私にとってはひとまずの目的は達成できました。
この記事が同じようなウイスキー好きの方にとって少しでも参考になれば幸いです。
今後も樽熟成の経過などを書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。