ウイスキーを熟成してみるブログ

初心者がミニ樽でウイスキーを熟成してみるブログです。

プライベートボトル

最近プライベートボトルのリリースが続いている。


あの有名な酒屋さんがあの蒸留所の樽を買い付けてPB出すらしい!リツイート!!
しかもエチケット(ラベル)デザインも素晴らしい!いいね!!
シングルカスクだから限定x本!なんとしても欲しい!!
発売開始時刻にPCのF5押下して即座に決済!
やった!注文受付メールが届いた!!


ウイスキーを愛する僕たちが何度となく繰り返す、もはやルーチンとなっている。


私がウイスキーと出会った20歳の頃、今では旧ボトルとなってしまったが当時のハイランドパーク12年が大好きだった。
家には常備していて、少しづつしか飲めない私が何本も空けたことを記憶している。
アルバイト代と奨学金が入ると当時節約のためにルームシェアしていた友人と連れ立ってバーに行った。
あの街のあのバーでは、あんな田舎には勿体ない程のボトルたちが壁を隙間なく埋めていた。
そこは閉鎖した蒸留所や旧ラベル、各種ボトラーズのボトルを体験できる夢のような空間だった。
ボトラーズやプライベートボトルはバーで飲むものだ、意図して意識していたわけではないが、そう思っていた。
当時お金が無かった私が足繁くバーに通っていたのは、なにもカッコつけだけでなく、色々なウイスキーを試してみるという体験を求めてのことだったと思う。

 


こうして思い出してみると、今はあの頃よりもバーを訪れる頻度は間違いなく減っていることに思い当たる。
ウイスキーについて取り立てて知識があるわけでも無く、オフィシャルですら飲んだことがない蒸留所なんていくらでもあるのに。
バーでしか出来ない体験の価値を知っているのに。


その理由はなんだろうか。
徒歩圏内に行きたいバーがない、新しい土地で落ち着ける行きつけを見つけるのは難しい、家庭を持ったから外に飲みに行くハードルが高くなった。
いろいろな理由はあると思う。どれも当てはまるのだが、使っている金額と飲む頻度と量はそこまで大きく変わってはいない。


ではなぜバーに行かなくなったのか。
一つ思い当たるのは、プライベートボトルやボトラーズのボトルを所有する数が増えたことだ。
リリースの数の増減は統計データが手元にないので判断出来ないが、Twitterなどでこれまでよりも情報が入ってくるようになり、ネット通販が発達して購入しやすくなったことで、そうなっていったように思う。
懐事情は人それぞれだが、富豪ではない、私のような、とある人が趣味に使えるお金は短い時間軸で見ればほぼ増減せず大したことがない額だろう。
すなわちウイスキーに使える金額は枠が決まっていると仮定すると、家で飲むボトルへの投資が増えればバーに落とすお金は減るのではないか。
コロナで自粛して外食しなくなった結果、スーパーや巣篭もり日用品の売り上げが増加したのと同じように。
ウイスキーに使えるお金を飲む量に置き換えても同じことが言える。(健康的に楽しむことができる量は限られている。)

 


つまり、枠は決まっているのだ。


プライベートボトルは、バーという業態のパイを奪ってはいないか。


バーでしか出来ない経験の機会を奪ってはいないか。


プライベートボトルを非難するわけでは無いことは理解して頂きたいが、マクロに見るとなんだか刹那的になってきてはいないか。

 

少し前に話題になったイチローモルト 505は、コロナの影響からバーを救うだけでなく、この問題をすこしでも解決したいという狙いもあったのではないか。

 

バーで気に入ったボトルがあれば、それから購入して、口開けからその最後までゆっくり時間をかけて味わいたい。


その製造工程の殆どを樽の中でじっと静かに過ごすように、ウイスキーというものの時間はゆったりと流れていて欲しい。

 

ただの消費者である私の独り言として、もちろん昨今のウイスキー人気で市場全体が大きくなっていることは分かっているのだが、最近ふとこんな事を考えた。


それ以来、これからの自分とウイスキーとの付き合い方を考えているが、無い袖は振れないので、バランスを定期的に見返すしか答えはなさそうだ。
久しぶりに訪れたバーのカウンターで緩んだ表情の裏で、そんな事を考えていた。