あの街のあのバーについて(大牟田市 THE WHISKY BAR)
福岡県大牟田市という辺境の街に素敵なバーがあることをご存じでしょうか。
大牟田市とは福岡県の最南端に位置し、かつて炭鉱で栄えた街です。
炭鉱で栄えた街と言えば、現在の姿を想像することは難しくないでしょう。
同じく炭鉱の町として栄えた夕張市が財政破綻した際には次は大牟田市だと言われていました。
その後行政の努力によって今のところは破綻するような話は聞きませんが、人口減少には歯止めがかからない状況が続いているようです。
その様子を肌で感じられる街一番の繁華街の様子がこちら。
GINZAの文字が虚しい地方都市の姿がここに。
誰もいない。シャッターは当然のように閉まっている。かつて栄えた面影を探す方が難しい。
しかし、これで心が折れてはいけないのです。
一人で歩くには勇気が必要な路地を進んで行けば、優しい光を放つTHE WHISKY BARの看板と木の扉が。
扉を開ければこの光景。
私がこのTHE WHISKY BARを訪れるのは古い友人と共に、ということが多いです。
マスターも「久しぶりだね」と迎えてくれます。
だからでしょうか、寂れた街の様子も相まって、ここに来れば懐かしい場所に帰ってきたような安心感と哀愁を感じずにはいられません。
それに、マスターは棚にいつも最高のウイスキーを揃えてくれています。
私はいつもお店に入った瞬間、これからここで過ごす数時間のうちに味わうことができるであろう旨いウイスキーと、語り合うであろう懐かしい話、それぞれの近況、マスターに語られる蘊蓄を想像して、とても幸せな気持ちになります。
マスターの佐藤さん曰く、「入ってきた時の表情、棚を見渡す仕草でその人がウイスキーが好きかわかるっちゃんね~」だそうです。たとえ私のようなウイスキー初心者でも、仕草などからその人のお酒との付き合い方が分かるのでしょう。
照明が落とされた店内には主にマスターお気に入りのジャズが流れています。
席は最大16席。空いていればカウンターに座りたいものです。
土地柄、お店を訪れる人全てがこのバーが提供しようとする価値を理解できる訳ではななさそうですが、最近は遠方から訪れる人も増えてきたのだそうです。
カウンター席の風景を見れば、わざわざ遠方から訪れる理由も納得です。
先日紹介した秩父もこのカウンターで頂きました。
マスターの「おいしいウイスキーをより多くの人へ」という気持ちについて先日触れた通り、非常に手頃な金額でたくさんの美味しいウイスキーを楽しむことができます。
学生時代、就職が決まった際にお祝いでここに来ました。
その際、前から気になっていた閉鎖した蒸留所ポート・エレンを頂きました。
ボトルにはもうあまり残っていなかったのですが、貧乏学生だったのでハーフでしか飲めませんでした。
潮を感じられてとても美味しかったので、「給料もらってお金出来たらまた飲みに来ます!」なんて冗談半分で言っていました。
社会人になって最初に訪れた時、マスターは本当にそのポート・エレンを奥から出して来て「隠してたよ(ニヤリ)。お金ある?」。
当然、ボトルに残っていた分をすべておいしくいただきました。
このホスピタリティーには本当に感動し、「またここでうまいウイスキーを飲めるように頑張ろう」と思ったことを覚えています。
今日は、こんな素敵なTHE WHISKY BARを多くの方と共有することができれば、と思って紹介させていただきました。
九州、福岡、熊本に用があった際には是非、あの街のあのバーに寄ってみてください。